## 環境・社会に関する議案は大きく落ち込むもガバナンスに関する議案は堅調2025年における環境・社会・企業統治(ESG)分野の株主提案の結果が出揃った。米非営利団体Proxy Previewなどは、7月15日、2025年の株主総会シーズンに日本企業に対して提出された株主提案数が前年比15%減の852件であったと発表した。環境・社会分野での減少が顕著であると同時に、ESGに批判的な「反ESG」提案は過去最多を記録しており、トランプ政権下における株主提案を取り巻く政治的・制度的な逆風は依然として強いことが明らかとなっている。Proxy Impactで調査を主導したマイケル・パソフ氏は「気候変動や多様性に関する提案は依然として重要課題だが、企業の反発と政治的圧力により通過は困難になっている」と指摘した。環境分野に関する株主提案の通過率はゼロに落ち込み、平均支持率も前年の21%から17%に低下。Scope3(バリューチェーン全体の温室効果ガス排出)に関する削減提案などは提案件数も支持率も落ち込んだ。社会課題でも、政治献金やロビー活動の透明性を求める提案はわずか2件が可決。多くの提案が企業側の反対や手続き上の理由により除外されたという。一方、企業統治(ガバナンス)関連の提案は堅調を維持。株主による特別会合の開催要件の緩和や取締役選任の単純過半数制導入を求める提案などが比較的多く可決された。これらはESGに直接関わらない提案として、企業からの反発が少ないことも背景にあるとみられる。## 株主提案の減少、「ノーアクション申請」増加も影響トランプ政権下では、米証券取引委員会(SEC)によるノーアクションレターの運用が注目された。米国においては、株主が会社の委任状説明書に自らの提案を記載するよう求めることができる。ただし、法令に違反するおそれのある提案、私的利益を目的とする提案、あるいは企業の通常業務に関する提案など、一定の条件に該当する場合には、会社側がこれらを記載しないことが認められている。企業が株主提案について除外要件に該当すると判断した際には、その妥当性についてSECスタッフに事前確認を求める手続きが設けられている。SEC開示・証券法対応における米国有数の専門家として知られるAnna Pinedo氏らが、ハーバード・ロースクールのフォーラムで発表した調査によると、2025年には反ESG提案者による提案に対して約55件のノーアクションレターの運用が行われ、前年(約40件)より増加。SECはそのうち約30件(半数超)について、株主提案を決議にかけずに省略することを認める決定を下した(前年は約40%)。これらの株主提案には以下のようなテーマが含まれていた。 ・ 温室効果ガス排出 ・ 宗教差別のリスク ・DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)を重視した報酬制度 ・DEI方針の廃止要求 ・ビットコインを企業資産として保有する戦略の検討SECが省略を認めなかった約25件の株主提案にも同様のテーマが含まれていたものの、その大半は2%未満の支持しか得られていなかったという。また、法的側面でも、2月にSECが発表した法律意見書の「SLB 14M」が注目を集めた。同文書により、従来は受理されていた提案が除外されやすくなった。SLB 14Mは2025年シーズン中に発効され、提案者側からは「ルールの後出し」として批判が上がっている。## 議決権行使助言会社にも風当たり強く政治の場でも株主提案や議決権行使助言会社への風当たりは強まっている。連邦議会では4月と6月に公聴会が開かれ、大手議決権助言会社のISSとGlass Lewisに対し「市場支配的」との批判が相次いだ。また、全米製造業者協会(NAM)による気候・サイバーリスク開示規則への法的異議も相次いでおり、規制緩和の動きが続いている。AIの倫理的利用、児童のオンライン上の安全、生物多様性リスクといった新興分野にも注目が集まっているという。Proxy Impactのパソフ氏は「ESG投資の次のフロンティアとして、これらのテーマが提案の中心になる可能性がある」と述べ、提案者側の戦略転換を促した。今後は、長期的な企業との対話(エンゲージメント)や、支持を得やすい提案設計がカギとなる。株主の声を反映させる仕組みの維持・拡充が問われている。
米国では株主提案の停滞、次年度に向けた論点整理始まる | アクティビストタイムズ | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア
環境・社会に関する議案は大きく落ち込むもガバナンスに関する議案は堅調
2025年における環境・社会・企業統治(ESG)分野の株主提案の結果が出揃った。米非営利団体Proxy Previewなどは、7月15日、2025年の株主総会シーズンに日本企業に対して提出された株主提案数が前年比15%減の852件であったと発表した。環境・社会分野での減少が顕著であると同時に、ESGに批判的な「反ESG」提案は過去最多を記録しており、トランプ政権下における株主提案を取り巻く政治的・制度的な逆風は依然として強いことが明らかとなっている。
Proxy Impactで調査を主導したマイケル・パソフ氏は「気候変動や多様性に関する提案は依然として重要課題だが、企業の反発と政治的圧力により通過は困難になっている」と指摘した。環境分野に関する株主提案の通過率はゼロに落ち込み、平均支持率も前年の21%から17%に低下。Scope3(バリューチェーン全体の温室効果ガス排出)に関する削減提案などは提案件数も支持率も落ち込んだ。社会課題でも、政治献金やロビー活動の透明性を求める提案はわずか2件が可決。多くの提案が企業側の反対や手続き上の理由により除外されたという。
一方、企業統治(ガバナンス)関連の提案は堅調を維持。株主による特別会合の開催要件の緩和や取締役選任の単純過半数制導入を求める提案などが比較的多く可決された。これらはESGに直接関わらない提案として、企業からの反発が少ないことも背景にあるとみられる。
株主提案の減少、「ノーアクション申請」増加も影響
トランプ政権下では、米証券取引委員会(SEC)によるノーアクションレターの運用が注目された。米国においては、株主が会社の委任状説明書に自らの提案を記載するよう求めることができる。ただし、法令に違反するおそれのある提案、私的利益を目的とする提案、あるいは企業の通常業務に関する提案など、一定の条件に該当する場合には、会社側がこれらを記載しないことが認められている。企業が株主提案について除外要件に該当すると判断した際には、その妥当性についてSECスタッフに事前確認を求める手続きが設けられている。
SEC開示・証券法対応における米国有数の専門家として知られるAnna Pinedo氏らが、ハーバード・ロースクールのフォーラムで発表した調査によると、2025年には反ESG提案者による提案に対して約55件のノーアクションレターの運用が行われ、前年(約40件)より増加。SECはそのうち約30件(半数超)について、株主提案を決議にかけずに省略することを認める決定を下した(前年は約40%)。
これらの株主提案には以下のようなテーマが含まれていた。
・ 温室効果ガス排出
・ 宗教差別のリスク
・DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)を重視した報酬制度
・DEI方針の廃止要求
・ビットコインを企業資産として保有する戦略の検討
SECが省略を認めなかった約25件の株主提案にも同様のテーマが含まれていたものの、その大半は2%未満の支持しか得られていなかったという。また、法的側面でも、2月にSECが発表した法律意見書の「SLB 14M」が注目を集めた。同文書により、従来は受理されていた提案が除外されやすくなった。SLB 14Mは2025年シーズン中に発効され、提案者側からは「ルールの後出し」として批判が上がっている。
議決権行使助言会社にも風当たり強く
政治の場でも株主提案や議決権行使助言会社への風当たりは強まっている。連邦議会では4月と6月に公聴会が開かれ、大手議決権助言会社のISSとGlass Lewisに対し「市場支配的」との批判が相次いだ。また、全米製造業者協会(NAM)による気候・サイバーリスク開示規則への法的異議も相次いでおり、規制緩和の動きが続いている。
AIの倫理的利用、児童のオンライン上の安全、生物多様性リスクといった新興分野にも注目が集まっているという。Proxy Impactのパソフ氏は「ESG投資の次のフロンティアとして、これらのテーマが提案の中心になる可能性がある」と述べ、提案者側の戦略転換を促した。今後は、長期的な企業との対話(エンゲージメント)や、支持を得やすい提案設計がカギとなる。株主の声を反映させる仕組みの維持・拡充が問われている。